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広島地方裁判所 昭和45年(ワ)229号 判決

原告

高橋二重

ほか三名

被告

趙雅之

主文

被告は

原告二重に対し金一〇〇万円

同正一に対し金二五万円

同千恵子に対し金二五万円

同健一に対し金二五万円

およびこれらに対する昭和四一年四月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

原告正一のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

原告正一につき金五〇万円の支払いを求めたほか、主文同旨の判決と仮執行の宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告二重は訴外高橋嚢の妻、同正一は長男、同千恵子は長女、同健一は二男である。

2  訴外八木忠久(以下八木と略称)は昭和四一年四月二九日午後九時一五分頃普通乗用自動車(以下被告車という)を運転して、広島市の平和公園方面より西進し、同市中町一〇番一号中村薬局前の交叉点にさしかかつたが、このような場合、自動車運転者としては、左右から進行してくる車両に充分注意を払わなければならない義務があるのにこれを怠つた過失により、折から同交叉点に向けて南進してきた訴外高橋嚢の運転する自動二輪車に被告車を衝突させ、よつて、同人に脳挫傷等の傷害を負わせ、同年五月一日午後二時頃、同市八丁堀岡本外科病院において死亡するにいたらしめた。

3  被告は被告車を所有し、これを自己のために運行の用に供するものであつたから被告車の運行により惹起された本件事故に基く後記原告らの損害を賠償する責任がある。

4  原告らは、右事故による右訴外人の死亡により著しい精神的苦痛を受けた。

5  よつて被告は、慰謝料として、原告二重に対し金一〇〇万円、同正一に対し金五〇万円、同千恵子に対し金二五万円、同健一に対し金二五万円およびこれらに対し、本件交通事故の日の翌日である昭和四一年四月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

二、請求原因に対する答弁

被告が被告車を所有していることは認めるが、本件事故は被告車が八木に盗用された間に生じた事故であるから責任を負う義務はない、その余の事実は不知。

第三、証拠〔略〕

理由

一、〔証拠略〕によれば請求原因第1項の事実が認められる。

二、〔証拠略〕によれば同第2項の事実が認められる。

三、そこで被告の責任について判断することとする。被告が被告車を所有していたことは当事者間に争いない。〔証拠略〕によれば、八木は事故当日夕方大芝町の被告宅へ遊びに訪れたところ留守ではあつたが戸があいていたのでしばらく待つていたところ、被告は戻つてこず、おりから八木は横川駅まで用事で行かねばならないことを思い出し、そこまで歩いていくのもめんどうで、当時被告とは親しい友人関係にあり、被告に黙つて車を借りても遠慮する間柄ではないと思つて入口の所の下駄箱の上においてあつた車の鍵をもち出して被告に無断で被告車を運転したものであること、又それ以前にも八木はしばしば被告車を借り出し、更には遠乗りをしたこともあるなどの事実が認められ右認定に反する被告本人尋問の結果は措信できず他に右認定を覆すにたりる証拠はない。そうだとすると右認定のように被告はアパートのドアに鍵もかけずに外出し、被告車の鍵を入口の下駄箱の上に放置しておくなど被告には車の所有者としてその鍵の保管上当然果すべき注意を欠いていたものというべく、且つ前述のように八木は被告とは親しい友人関係にあり、従来も被告車の運転をしたことが全くなかつたというわけではないのみならず、もともと事故当日の八木の被告車の運転は被告に無断ではあつたが、被告の家からそうはなれていない横川駅で用足しをするためであつて用事が済めば短時間内に帰還することを予定してなされたものであると認められるのであるから、右のような立場にある八木による被告車の無断運転によつて被告の有する被告車の運行に対する一般的支配が奪われるに至つたものとは到底認めることができない。従つて被告は本件事故当時も依然として被告車を自己のために運行の用に供するものとして、その運行によつて惹起された本件事故による後記損害を賠償する責任がある。

四、次に慰謝料について判断することとする。訴外高橋嚢は原告らの夫であり、父であつたことは前記認定のとおりであり、〔証拠略〕によれば原告二重は右訴外人と結婚以来二〇年近くもの間生活を共にし、その他の原告らも当時一二才から一七才までであつて円満な家庭生活を営み、又生計はほとんど右訴外人の収入に依存していたことなどが認められ、このように精神的、経済的に大黒柱ともいうべき右訴外人を失つたため原告らの蒙つた精神的苦痛は察するに余りあるものというべく、したがつて右訴外人の過失を考慮してもなおこれを慰謝すべき金額は原告二重に対しては金一〇〇万円、その他の原告に対してはそれぞれ金二五万円とするのが相当であると考える。

よつて被告は原告二重に対し金一〇〇万円、同正一、同千恵子、同健一に対してそれぞれ金二五万円およびこれらに対する本件交通事故の日の翌日であること明らかな昭和四一年四月三〇日から支払ずみにいたるまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならないから右限度において本訴請求を認容し、原告正一のその余の請求を棄却し、訴訟費用の負担について民訴法九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤宏)

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